第75号 最新医学論文75

Recommendations for the standardisation of oxytocin nasal administration and guidelines for its reporting in human research.

Guastella AJHickie IBMcGuinness MMOtis MWoods EADisinger HMChan HKChen TFBanati RB.
Psychoneuroendocrinology. 2012 Dec 20.

 オキシトシンは生理学(ex.視線、心拍変動)、社会認知(ex.注意、記憶、評価)、行動(信頼、寛容)に良い効果を持つことが報告されているが、実験や個人によってその反応に違いがある報告が増えている。研究によって投与量、組成、投与方法などがバラバラで、研究を再現できないことが最大のネックになっており、無駄である。そのため、人でオキシトシンの鼻腔投与をするときの標準化を行い、報告のガイドラインを作成する必要があると思われる。

<臨床場面でのオキシトシン>
 治療薬としてのオキシトシンは、陣痛促進のためにピトシンあるいはシントシノンの名で産科適用されている。

<スプレー式点鼻薬の投与>
 点鼻薬は、歴史的には鼻づまりなどの局所治療のために、低分子量で疎水性の交感神経刺激薬が用いられてきた。
 陣痛促進のためには静脈注射が用いられているが、研究で用いるには侵襲的である。
 経口投与では、肝臓で分解・代謝されてしまう。
 鼻腔投与が用いられている理由は、局所的な注射よりも中枢神経系(CNS)の標的部位に有効に働くと仮定されているためであるが、鼻腔投与の吸収ルートは未だに不明である。9つのアミノ酸からなり、分子量1007DaのオキシトシンがBBBを通過し、中枢神経系の機能に報告されているような影響を与えるのかどうかは不明である。
 ヒトとヒト以外の種での差も問題で、例えばラットは嗅上皮が鼻腔の50%を占めるが、ヒトではわずか3%である。
 Bornら(2002)はバソプレッシン(AVP)をヒトに鼻腔投与し、末梢血ではなく脳脊髄液(CSF)でAVPの上昇がみられることを報告しており、これが唯一のヒトでの報告である。筆者らは嗅上皮の細胞間間隙を通してくも膜下領域に直接拡散したのではないかとしている。しかし、AVPの生理学的、行動学的効果とCNSへの浸透を関連づける報告がなく、あまり広まらなかった。また、他の研究はオキシトシン投与で末梢血での血中濃度の増加を示している。

<吸収>
 薬物投与の目的は標的サイトに適切な投与量を投与することだが、現時点ではオキシトシンのバイオアベイラビリティを決定することは出来ない。
 産科で鼻腔投与が用いられていないのは、個人または文脈によって一致した反応を得ることが難しいためである。

<鼻の解剖学>

 上気道は鼻咽頭、中咽頭、咽頭喉頭部で構成され、すべて粘膜吸収が可能である。内部の表面積は150cm2、容量は15mlである。
 鼻には血管の逆流という効果的なシステムがあって、鼻粘膜に沿った前向きの流れは、冷たい空気にさらされている鼻空きの部分で冷やされる。ほ乳類では、鼻で息をしているか口で息をしているかによってこのシステムが別々に働く。
 ヒトの鼻の血管系の神経制御はまだ完全には分かっていないが、知覚神経支配は三叉神経の側枝を介している。
 また、古典的な神経伝達物質が主な調節因子である。
 静脈はほぼ交感神経系の制御を受け、より大きな血管は複合的な自律神経支配を受ける。
 鼻の粘液は95%が水で、10~15分でクリアランスされている。

<スプレー式点鼻薬からの吸収>
 最初は粘液の通路から吸収される。鼻腔のmiddle sectionは呼吸領域であり、血流と表面積の大きさのため、主な吸収エリアである。鼻腔前部は吸収率は悪いが、スプレーの多くはここに溜まる。
 吸収は図2の1つまたはそれ以上のルートで行われる。
・Route 1・・・鼻の血管系を介して全身に循環する
・Route 2・・・口腔粘膜や胃腸を介して全身に循環する
・Route 3・・・周辺リンパ液を介したものを含む、CSFや脳への直接的な嗅球経路。このルートが最も興味深く、嗅上皮の嗅細胞に取り込まれる可能性がある。その後、嗅球に伝達され、脳脊髄液または脳組織に伝えられる。注意すべきことは、このルートでは嗅覚のスリットはわずか1mm幅で、標準的なスプレーボトルでは付着が難しいところにある。このルートからの吸収はパーセンテージ的にはごく僅かで、個人や経験によって変動する。
・Route 4・・・脳幹への三叉神経ルート。最近より注目されているが、ヒトでの研究はまだない。このルートを経由した吸収はCSFの変化と関連しない。オキシトシンの鼻腔投与が心拍数を変化させることは、このルートの重要性を示唆している。
・Route 5・・・脳実質組織の間質空間に結合するparavascular spaceに沿って、効率的な液体輸送が行われているようである。

<鼻腔の構造と環境>
 鼻腔は解剖学的な個人差(大きさ、容量、曲がっているなど)があるので、その違いに応じて簡単に投与できる技術の開発が必要である。
 違法ドラッグユーザーは、鼻腔から中枢への直接的な速い経路が形成され、鼻腔の構造と環境を変えている。アルコール乱用を含む薬物乱用は、脳の標的サイトに影響している可能性もあり、研究対象から除外すべきである。
 鼻粘液は喉の方に毎分3~25mm動く傾向があり、粘膜網様体クリアランスとして知られている。これはガンマカメラやサッカリンによって簡単に測定できる。クリアランスが早いほど吸収の時間は少ない。
 風邪ではクリアランス率は明らかに低下し、薬の吸収を阻害する。
 鼻腔の構造とともに、内部環境も重要な要因である。

<エンハンサー>
 BBBを通過するには隣接する細胞同士のタイトジャンクションを通して輸送可能でなくてはならない。アプローチ方法として、低溶解性化合物、粘液付着性ゲル、乳状液などが利用できる。しかし残念なことに、これらは鼻腔環境を悪化させる可能性がある。

<投与方法など>
 製剤特性については、粘度は高い方がよく、液体の大きさは大きすぎても小さすぎてもよくないようである。
 投与量のばらつきを抑えるためのボトルデザインを考える必要がある。
 投与時は直立姿勢で、鼻に1.5cm以上入れ、地面と約45度の角度で噴霧すると良い。
 反対の鼻を指でふさぎ、呼吸と合わせて投与すると良い。

<今後の研究>
 経鼻以外の投与方法を考える必要性がある。
 中枢のオキシトシン放出を活性化する代替治療薬の開発が必要である(AVP、メラノコルチン、ガラニン、オレキシンとオキシトシン経路など)。

 



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