第78号 最新医学論文78

母親の幼少期の虐待経験は
子どもの自閉症のリスク増加と関連する

Association of Maternal Exposure to Childhood Abuse With Elevated Risk for Autism in Offspring

Andrea L. Roberts, PhD; Kristen Lyall, ScD; Janet W. Rich-Edwards, ScD; Alberto Ascherio, DrPH; Marc G. Weisskopf, PhD, ScD
JAMA Psychiatry. 2013;():1-8. doi:10.1001/jamapsychiatry.2013.447.

重要性:周産期の不利な環境は子の自閉症のリスク増加と関連づけられてきた。子ども虐待の経験をもつ女性は、そうでない女性よりも不利な周産期環境となるが、母親の虐待が子の自閉症と関連するかどうかは知られていない。

目的:母親の子ども虐待経験が子の自閉症のリスクと関連するかどうか、そのリスクの増加は、虐待経験をもつ女性が不利な周産期環境となる率が高くなることで説明できるかどうかを決定することである。不利な周産期環境とは、妊娠中毒症、低出生体重、妊娠糖尿病、過去の中絶、親密なパートナーからの暴力、37週より短い妊娠期間、妊娠期のSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)の使用、飲酒、喫煙を含む。

デザインと設定:116,430名の女性からなるNurses’ Health StudyⅡという人口ベースの縦時コホートである。

参加者:母親の子ども虐待と、子どもの自閉症状態に関するデータをもつ看護師である(97.0%は白色人種/民族)。統制群は子に自閉症がいない女性からランダムに選ばれた(参加者は自閉症児の母親451人と、自閉症でない子の母親52498人であった)。

主要アウトカムメジャー:子の自閉症スペクトラム障害で、母親の報告によって査定され、下位集団においてADI-Rで確かめられた。

結果:虐待経験は子どもの自閉症のリスク増大と関連づけられ、連続的な増加をたどった。最もハイレベルの虐待は自閉症の有病率の高さと関連しており(虐待経験のない女性で0.7%なのに対し、1.8%、p=.005)、人口統計学的要因を調節しても非常に高い自閉症の危険率であった(危険率3.7;95%Cl、2.3-5.8)。低出生体重を除く全ての不利な周産期環境は、子ども虐待経験をもつ女性でより頻繁にみられた。周産期の要因を調節した場合、母親の子ども虐待と子の自閉症との関連はわずかに弱まった(最も高いレベルの虐待での危険率は3.0;95%Cl,1.9-48)。

結論と関連性:我々は、母親の子ども虐待経験と次世代の自閉症のリスクとの間に世代を超えた関連があることを同定した。不利な周産期環境は、このリスク増大のほんの一部を説明するにすぎない。
 自閉症の起源はほとんど知られていないが、多くの仮説は子の自閉症への発展に潜在的に重要であるとして周産期に焦点を当てている。未熟児、低出生体重、妊娠糖尿病や高血圧、長いもしくは非常に短い出産、母親の子宮出血、在胎週数に対して小さいこと、35週より短い妊娠期間は、子の自閉症のリスク上昇と関連づけられてきた。それに加え、周産期の母親の喫煙、SSRIの使用、親密なパートナーの暴力も自閉症児をもつ危険性と関連づけられてきた。妊娠前や妊娠期間中に、子ども虐待経験をもつ女性はそうでない女性よりも、喫煙、薬物使用、過剰体重、ストレス、親密なパートナーからの暴力を含む、胎児に有害であると思われる行動をとりやすいようである。母親の子ども虐待経験はまた、望まない妊娠、早産、低出生体重にも関連づけられる。それ故、母親の子ども虐待経験は子の自閉症のリスクファクターとなるだろう。しかし、我々の知る限り、母親の子ども虐待経験と子どもの自閉症のリスクの間の関連はまだ検討されていない。
 この論文で我々は、大規模な人口ベースコホートで母親の子ども虐待経験と自閉症のリスクの関連を評価した。我々はさらに、子ども虐待経験をもつ女性の子どもに自閉症のリスクを上昇させる可能性のある要因として、いくつかの周産期の暴露について調べた。

方法

サンプル
 我々はもともと人口の多い米国14州から1989年に採用された女性看護師116,430名からなるコホートであるNurses’ Health StudyⅡからのデータを使用し、2年に1度のアンケートでフォローアップした。我々は自閉症スペクトラム障害の子どもをもった経験のある、もしくは2001年の補足アンケートで母親の子ども虐待経験について回答した54,963名の女性からのデータを検討した。Partners Healthcare Institutional Review Boardはこの研究を承認した。USメールによって送信されたアンケート調査の完了および返答は同意を表している。

測度

症例と統制群の選択
 2005年の隔年のアンケートで、自閉症、アスペルガー症候群、あるいはその他の自閉症スペクトラム障害と診断された子どもがいるかどうかを尋ねた。2007-2008年には、これらの診断のいずれかの子どもをもつと回答した、Nurses’ Health StudyⅡに参加している756名の女性にフォローアップアンケートを送り、子どもの性別、誕生日、診断名を尋ねた(636名から回答があり、84.1%の回答率であった)。
 最初子どもの自閉症を報告していた何人かの女性は、フォローアップアンケートの回答に基づいて除外された。以下の重複する環境のいずれかを報告した女性は研究から除外された:患児が採用された(n=9)、参加したくない(n=20)、子どもが自閉症ではなかった(n=32)、子どもの出生年を報告しなかった(n=71)。患児がレット症候群、ダウン症、11q欠失障害、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群、18トリソミー症候群、クラインフェルター症候群であると報告した11名の女性も除外された。ここで我々は、これらの選択基準を満たす子の症例について言及する;我々は自閉症スペクトラム障害をさす用語として自閉症という用語を用いる。残り549症例のうち98名の女性は母親の子ども虐待を調べるアンケートに参加せず、最終的に451症例となった。2005年のアンケートで自閉症の子どもをもつと報告したが、分析には含められなかった女性(n=389)は、自閉症の子どもをもつと報告し、分析に含められた女性(n=451)と、生年月日(両群で中央値1957年)、婚姻状態(結婚していた女性は除外された女性の83.0%、含められた女性の85.8%)、1989年のNurses’ Health StudyⅡ登録時点での喫煙状態(喫煙者は除外された女性で10.3%、含められた女性で11.0%)について同じような状態であった。
 自閉症の診断はインタビューを完了しようという意志を示した、50名のランダムに選択された母親に対し、電話でインタビューすることで症例のサブサンプルで確かめられ(81.4%の母親がインタビューを受ける意志を示した)、自閉症診断インタビュー(ADI-R)を用いて行われた。検証サブスタディへの参加に同意した女性は、参加の意思を示さなかった女性と自閉症スペクトラム障害の診断において同様であった(参加の意思を示した女性の間で24.9%が自閉症、50.9%がアスペルガー症候群、25.3%がその他の広汎性発達障害を報告した;参加の意思を示さなかった女性の間では、25.5%が自閉症、49.0%がアスペルガー症候群を、22.6%が広汎性発達障害を報告した)。検証スタディに参加の意思を示さなかった女性は、子どもの性別、未熟児の状態、子どもの誕生年、低出生体重の有病率についても参加の意思を示した女性と異なっていなかった。
 このサブスタディでは、43名の子ども(86.0%;95%Cl, 74.0%-93.0%)が自閉症診断についてADI-Rの基準を満たし、3つのドメイン全てでカットオフ得点を満たし、3歳以前の発症によって定義された。残りの子どもは発症の基準とコミュニケーションドメインのカットオフを満たしたが1ドメインの1ポイントで完全な診断から外れた(n=5)か、もしくは1つまたは2つのドメインでのみカットオフを満たした(n=2)。ADI-Rは完全な自閉性障害ではなく、自閉症スペクトラム障害のためのアルゴリズムを提供する。検証スタディでは全ての子どもが自閉性の行動を示した。ADI-Rの基準を完全に満たさなかった子どもはかろうじて満たさなかったのであり、自閉症のスペクトラム上にいるであろう。
統制群は自閉症の子どもをもったことがないと報告し、2001年のアンケートで生まれた年と性別と、母親の子ども虐待を報告した経産婦であった。統制群の母親の特徴の独立性を確保するため、我々は出生数から母親の子ども虐待に関するデータをもつ女性につき1人の出生をランダムに選択した(n=52,498)。1989年のベースラインで、分析に含められた女性は除外された女性に比べ、喫煙率が低く(29.0% vs 35.6%)、より多く妊娠し(90.9% vs 68.4%)、白色人種/民族が多い(97.0% vs 94.3%)ようであった。

母親の子ども虐待経験
 虐待経験は2001年に調べられた。12歳以前の身体的、心理的子ども虐待はChildhood Trauma Questionaireの身体的、心理的虐待の下位尺度からの5つの質問で調べられ、以下の行動をとる家族がどれくらいいたかを尋ねるものであった:(1)あざが残るほど強く叩かれた、(2)残酷に思えるやり方で罰を与えられた、(3)侮辱された、(4)叫び声、大声をあげられた、(5)ベルトやその他の固い物で罰せられた。各項目について、回答は「全くない」「まれに」「時々」「しばしば」「ほとんど常に」であった。回答は0(全くない)から4(ほとんど常に)まで得点化され、質問紙のスコアリング様式に従って合計された。検証スタディでは、尺度の内的整合性は良く(クロンバッハα=.94)、2ヶ月から6ヶ月の間隔を置いた再テストの信頼性(級内相関0.82)も良かった。結果の尺度は、危険率を計算し、子ども虐待の深刻さと子の自閉症のリスクの間の潜在的な用量反応関係を調べるために、だいたい四分位値に分割された。
 2つの時期、すなわち12歳以前と12-17歳に起こった性的虐待が調べられた。各期間について、大人や年長の子どもから性的接触があったか、あるいは大人や年長の子どもから性的接触を強制または強要されたか、2つの質問がされた。回答は「全くない」「一回」「複数回」であった。ひとつの測度にするために、「一回」の回答は1ポイント、「複数回」の回答は2ポイントとした。我々はその後、分析のために次のようにこれらのポイントをグループ化した:0ポイントは虐待なし、1または2ポイントは軽度の虐待、3または4ポイントは中等度の虐待、5ポイント以上は激しい性的虐待。
 性的虐待と身体的、心理的虐待の両者に高レベルで曝されることは、どちらか単独のタイプよりも子の自閉症のリスクはより大きくなると考えられる。それ故、我々は身体的、感情的虐待と性的虐待の測度を合計することで、両者を組み合わせた尺度を作成した。

潜在的なメディエーター
 2001年には出生児体重、妊娠中の喫煙やアルコールの使用、親密なパートナーの心理的、身体的、性的虐待への日常的暴露が調べられた。出生児体重は母親の報告により、5つのカテゴリーに分けて調べられた:2.3kg以下、2.3-2.4kg、2.5-3.1kg、3.2-3.8kg、3.9-4.1kg、4.1kg以上。妊娠中の喫煙は「この妊娠中に1日どれくらいのタバコを吸っていましたか」という質問で調べられた。回答は何本か、または全くで二分された。妊娠中のアルコールの使用について「この妊娠中に1週間に平均どれくらいのアルコールを飲んでいましたか」という質問で調べられた。1週間あたり1回より多かった女性はほとんどいなかったので、回答は全くか、1週間あたり1または2回、またはそれ以上でコードされた。親密なパートナーによる虐待の日常的な歴史は虐待査定尺度改訂版で2001年に調べられた。パートナーへの恐怖、心理的、身体的、性的虐待はそれぞれ1つの質問で調べられた:「あなたの配偶者または大切な人に恐れを感じたことはありますか?(パートナーへの恐怖)。「あなたの配偶者または大切な人から心理的に虐待されたことがありますか?」(心理的虐待)。「あなたの配偶者または大切な人から叩かれたり、平手打ちされたり、蹴られたり、またはその他の身体的に傷つけられたことがありますか?」(身体的虐待)。「あなたの配偶者または大切な人に性的活動を強いられたことはありますか?」(性的虐待)。これらの質問に続き、回答者はその虐待が何年に起こったかを示した。我々は出生年以前の虐待を潜在的な媒体として含めた。出生以前の年に起きた虐待は子の自閉症のリスクと関連づけられてきたからである。指標となる子どもの誕生以前に人工妊娠中絶を受けたことがあることは、人工妊娠中絶の経験に基づいて二分法でコードされ、中絶の年齢を含め、1993年に調べられ、1997、1999、2001年に更新された。妊娠糖尿病は、その経験と診断年に関する質問により二分法でコードされ、1989年に過去を振り返って調べられ、隔年で更新された。「血圧上昇とタンパク尿」で定義される、妊娠中の毒素血症や妊娠中毒症が起こった経験と年齢は1989年に調べられ、隔年で更新された。1996年から2007年のSSRIの使用は隔年で調べられた。女性は過去2年間に定期的にパキシル(パロキセチン塩酸塩)、プロザック(フルオキセチン塩酸塩)、ゾロフト(セルトラリン塩酸塩)を使用していたことがあるか尋ねられた。これらのいずれかを使用した女性は、アンケートに答えることで、2年間に起こった出生の周産期期間中にSSRIを使用したとコード化された。最初のSSRI(フルオキセチン)は米国では1988年に利用可能になったので、1988年以前に出産した全ての女性は妊娠中にSSRIを使用していないとコードされた。それに加え、1993年にはフルオキセチン塩酸塩またはセルトラリン塩酸塩を使用したことがあるかどうかを尋ねられた。これらの物質を使用したことがないと答えた女性は、1993年かそれ以前の妊娠中にSSRIを使用したことがないとコードされた。SSRIを使用したことがあると回答し、子どもが1989年から1993年の間に生まれた女性は、この変数を用いた分析からは除外した。これらの女性は調べられた4年間に時々SSRIを使用していたが、その期間中の妊娠期にSSRIを使用していたかどうかは分からない。子どもが生まれたときの母親の年齢は次のようにコード化された:25歳以前、25-29歳、30-34歳、35-39歳、40歳以上。子どもの出生年は連続的であり、母親の子ども時代の社会経済的地位は、彼女の幼少期の両親の最高学歴によって測定した。

統計解析
 χ2検定を用いて、母親の性的虐待、身体的・心理的虐待、それらの組み合わせが子どもの自閉症のリスクと関連するのかどうかを最初に確認した。我々は次に、母親の子ども虐待の状態によって周産期のリスク要因の有病率を調べた。考えられる交絡因子を調整した後、母親の子ども虐待経験が子どもの自閉症のリスクと関連するかどうかを判断するため、誕生年、子どもの性別、母親の出産年齢、母親の幼少期の社会経済的地位を調節したうえで、母親の性的虐待、身体的・感情的虐待、あるいは複合的な身体的・心理的・性的虐待と自閉症のリスクをモデル化した。
 周産期のリスク要因によって潜在的なメディエーターを調べるために、我々は周産期リスク要因、潜在的な交絡因子、複合的な母親の身体的・心理的・性的虐待の関数として自閉症のリスクをモデル化した。我々はSAS Mediateを用いてメディエーターの割合を調べた。最後に、我々は母親の子ども虐待経験と自閉症のリスクの間に性別特異的な関係がある可能性を調べるために、子どもの性別によって階層化したモデルを実行した。
 我々はリスク比を推定するために、ログリンクとポアソン分布による一般化推定方程式を用いた。複合的な幼少期の身体的・心理的・性的虐待による妊娠期のリスク因子の有病率が統計的に有意であるかを計算するために、各リスク因子を二値従属変数とし、母親の子ども虐待経験を独立変数として、ログリンクと二項分布による一般化推定方程式を用いてモデル化した。3段階で測定された、妊娠中のアルコールの使用についての有病率が統計的に有意かどうかを計算するため、我々は累積ロジットリンクと多項分布による順序ロジスティック回帰を用いた。

結果

 約3%の女性(1788名[3.4%])が深刻な性的虐待に曝されていた。深刻な性的虐待経験をもつ女性の子どもは、性的虐待経験のない女性の子どもと比較して自閉症の有病率が上昇していたが、統計的に有意ではなかった(虐待経験のある女性の子どもで1.3%が自閉症であったのに対し、そうでない女性の子どもでは0.8%であった、p=.11)。身体的・心理的虐待経験をもつ女性は自閉症児がいる割合が多いようであった(虐待の最も高い四分位に位置する母親では自閉症は1.1%、虐待のない母親では0.7%、p=.003)。最も高いレベルの身体的・心理的・性的虐待を複合的に受けた母親では、子どもに高い自閉症の有病率があった(1.8% vs 虐待のない母親では0.7%、p=.005)。

 母親の複合的な身体的・心理的・性的虐待は、用量-反応様式で周産期のほぼ全ての不利な環境の有病率が増加することと関連していた。虐待経験のない女性と比較して、最も高いレベルの虐待を受けた女性は妊娠期の糖尿病が多く(5.3% vs 2.7%)、妊娠期の喫煙(0.4% vs 0.2%)、明らかな毒素血症と妊娠中毒症(7.7% vs 3.6%)、以前の人工妊娠中絶(15.9% vs 10.0%)、37週より短い妊娠期間(9.4% vs 7.1%)、妊娠中のアルコールの使用(週あたり1回以上、5.1% vs 2.8%)出産以前の親密なパートナーからの虐待経験(23.3% vs 6.1%)。子ども虐待経験をもつ女性が5.0ポンド未満の体重の子どもを生む傾向は統計的に有意ではなかった;しかし7.0から8.4ポンドではない子どもを生む傾向が強く、その範囲の出生体重は乳児死亡率が最も低いことと関連づけられている。


 人口統計学的変数(周産期リスク要因ではなく)で調節したモデルでは、性的虐待または身体的・心理的虐待経験をもつ女性は、直線的な増加方式で自閉症の子どもをもつ傾向が強かった(表1のモデル1と2)。複合的な身体的・心理的・性的虐待も直線的な増加方式で子の自閉症のリスクと関連していた(Table2, model 1)。幼少期に複合的な身体的・心理的・性的虐待の最も高いレベルの虐待を受けた1124名の女性は、子ども虐待経験のない女性と比較して自閉症の子どもをもつリスクが最も高かった(危険率3.7; 95%CI, 2.3-5.8; p<.001)。
 周産期のリスク要因を含めたモデルでは、母親の子ども虐待はなお有意に子の自閉症のリスク増加と関連していたが、危険率の推定値はわずかに減少した(Table 2, model 2)。この推定値は統計的に0と異なっていなかったが、我々が調べた周産期の要因は統計的に、子ども虐待と子の自閉症のリスクの関連の7.2%を占めている。性別によって階層化したモデルでは、子ども虐待経験をもつ女性の女児と男児で同様に自閉症のリスクは上昇を示し、虐待と性別の交互作用は統計的に有意ではなかった。周産期にSSRIを使用した女性は125名のみであったので、SSRIの使用を含めたモデルは収束しないと思われた。それ故我々は、潜在的な媒体としてのSSRIの使用を除外した。
 我々は、母親の子ども虐待と子の自閉症のリスクの関連性を媒介する最も重要な周産期要因は何かを同定するためにさらに分析を行った。我々は各周産期要因について別々にメディエーションを計算し、母親の幼少期の社会経済的状態と出産年齢、子どもの出産年と性別について調整した。これらの分析で、我々は妊娠期の糖尿病(mediation, 3.5%)と出生前の中絶(mediation, 3.0%)が子ども虐待と子の自閉症の関係に対する最も強力なメディエーターであることを発見した。妊娠期の喫煙は関連の2.3%を媒介し、残りの変数が媒介するのは1.2%以下であった。
 母親の子ども虐待は、調べられた周産期要因のほとんどと強く関連していたので、我々は子ども虐待が、周産期要因と子の自閉症の関連を統計的に説明するのかどうか(すなわち、子ども虐待はこれらの要因と自閉症との関連を交絡させるのかどうか)を調べるために追加の分析を行った。我々は子の自閉症と各周産期要因との関連を別々のモデルで調べ、人口統計学的要因を調整し、独立変数として母親の子ども虐待の有無を追加した。
 これらの分析では、子の自閉症と人工妊娠中絶、妊娠期の喫煙、親密なパートナーからの虐待が、母親の子ども虐待について調整した後にいくらか弱められた(減弱範囲は12.1%-19.2%)。妊娠期糖尿病と子の自閉症の関連は僅かに弱まった。妊娠期間が37週より短いこと、低出生体重と子の自閉症との関連は、母親の子ども虐待について調整した後も弱められなかった。毒素血症と妊娠中毒症、妊娠期のアルコールの使用は子どもの自閉症と関連していなかった。

コメント

 我々は、幼少期の母親の虐待への暴露が子の自閉症のリスク上昇と単調増加様式で関連していることを発見した。特に、最も高いレベルの身体的・心理的虐待に曝された女性は、我々の研究では助成の4分の1にのぼるが、虐待経験のない女性に比べ自閉症の子どもをもつリスクが61.1%上昇した。また、我々は一連の周産期要因は母親の子ども虐待経験と子の自閉症のリスクと関連づけられることを発見した。しかしこれらの要因は母親の虐待経験と子どもの自閉症の関連のごく一部を説明するにすぎない。我々の知る限り、人生初期の母親のストレス要因への暴露を、子の自閉症のリスク要因として調べた研究はない;しかし、ストレスフルなライフイベントといった、周産期におけるいくつかの母親のストレス要因は、所見が混在しているものの、子どもの自閉症のリスクと関連づけられている。
 我々の結果は少なくとも4つの可能性と一致している。第一に、子ども虐待と関連づけられる、感染症や貧しい食事、不十分な妊婦検診、薬の使用、違法ドラッグの使用、ストレスフルなライフイベントといった付加的な無限の周産期の逆境的環境が、我々が発見した全ての関連性を説明するのかもしれない。
 第二に、母親の子ども虐待経験とその行動的、心理的、身体的後遺症は、視床下部-下垂体-副腎(HPA)系、視床下部-下垂体-性腺系、免疫系を含む母親の生物学的システムを変えてしまっているかもしれず、そのことが子どもの自閉症のリスクを直接的に増加させているのかもしれない。子ども虐待は女性やその幼児でHPA系の調節不全と関連づけられている。HPA系の調節不全は自閉症者でもみられ、母親のHPA系の調節不全が胎児の脳に影響すると仮定されている。また、急性の心理社会的ストレッサーへの暴露はアンドロゲンの分泌を増加させる可能性があり、出生前に高濃度のアンドロゲンに曝されることが自閉的特性と関連することを示唆する証拠もある。しかし、子ども虐待が母親のアンドロゲンの持続的な上昇につながるかどうかは分かっていない。免疫不全もまた子ども虐待の経験と関連づけられている。免疫不全と神経炎症を含む炎症は自閉症者で有病率が高い。母親の炎症は脳の発達に影響し、母親の炎症と免疫機能は自閉症の原因となると仮定されている。
 第三に、母親の子ども虐待経験はエピジェネティックまたはその他のメカニズムを通して、中枢神経系の鋭敏化、HPA系の機能不全、恐怖を見積もる反応系に影響する前頭皮質への影響を介して身体的、心理的ストレッサーに対する生物学的応答性を増加させる可能性がある。ストレッサーへの過剰反応性は今度は、母親と胎児のHPAや視床下部-下垂体-性腺系、免疫系機能への影響を介して胎児の発達にネガティブに影響する可能性がある。
 第四に、母親の幼少期の虐待経験は子の自閉症の遺伝的リスクの指標となるかもしれない;両親の精神疾患は子ども虐待を犯すことと関連があり、研究結果によると自閉症の遺伝的リスクはその他の精神疾患の遺伝的リスクと重複していると示唆されている。従って、祖父母による子ども虐待の犯行と母親による幼少期の虐待経験は、子どもの自閉症の遺伝的リスクの指標となるかもしれない。
 我々の研究は、女性の幼少期の暴力への暴露と、彼女の子どもの深刻な発達障害へのリスクの間には世代を超えた関連があることを示している。我々が調べた周産期の不利な環境が様々な後遺症を与えるとすると、子ども虐待に曝された女性の子どもたちは、虐待を受けていない女性の子どもたちと比較して、追加的な一群の健康問題の有病率が高くなると思われる。子ども虐待と周産期のリスク要因との関連を調べた先行研究は、一般的に小さなサンプルで行われており、調べられる結果も範囲が限られている。従って本研究はこれまでのところ、母親の子ども虐待経験と周産期リスク要因との関連を大規模な人口ベースサンプルで最も包括的に調べたものである。
 我々の結果は、2つの重要な制限事項に照らして考えられねばならない。第一に、子どもの自閉症、母親の子ども虐待、母親の妊娠への暴露は参加者の自己報告によるものであった。自閉症の報告は信頼性と妥当性が確かな測度であるADI-Rによって確かめられた。このアプローチは疫学的研究の大多数と一致しているが、それは診断を行うものではない。プロの看護師というこのコホートは、健康関連状況の自己報告は様々な検証研究で高精度であった。それにも関わらず、自閉症、子ども虐待経験、妊娠への暴露の誤報告が我々の結果にバイアスをかけている可能性はある。第二に、女性が自信の子ども虐待経験を報告したのは、子どもが自閉症であると知った後であった。子どもが自閉症であると知ることが子ども虐待経験の報告に影響するとすると、これは我々の結果にバイアスをかけるかもしれない。しかし、女性の子ども虐待の経験は子どもの自閉症の文脈において尋ねられた訳ではなかった。母親の子ども虐待と子の自閉症は、4年の間隔をおいて別のアンケートで調べられ、バイアスの可能性を減少させている。
 我々がここで同定した、母親の子ども虐待と子の自閉症との関連が、部分的には直接的もしくは間接的に虐待の影響であるとすると(虐待経験と自閉症が遺伝的リスクを共有するのとは反対に)、臨床実践のためにいくらかの意味を持っている。まず、子ども虐待を防止するためにますます努力が必要であることに、もうひとつの説得力のある理由を提供している。第二に、我々は自閉症の子どもをもつリスクが上昇した集団を同定した。すなわち、中等度もしくは深刻な子ども虐待経験をもつ女性である。第三に、不利な周産期環境を通して子の自閉症のリスクが媒介されるとすると、不利な周産期環境の予防が、これらの女性の子どもの、自閉症へのリスクを軽減させる一つの可能な手段になることを示唆している。
 研究については、子の自閉症に対する周産期のリスクを調べる研究は、母親の子ども虐待による交絡の可能性を考えなければならない。母親の虐待は、我々が調べたどの周産期のリスク要因にも強く関連しており、虐待について調節すると、いくつかの周産期リスク要因と子どもの自閉症との関連は弱められた。母親の虐待は、周産期のリスク要因によって媒介されるのではないメカニズムを通して子の自閉症のリスクを増加さするとすると、あるいは母親の虐待は子どもの自閉症の遺伝的リスクの指標であるとすると、周産期のリスク要因を調べる研究は、その要因が自閉症の起源に因果的役割を持っていないとしても、自閉症との統計的関連を見つけられるかもしれない。母親の子ども虐待が主に共有される遺伝子を通して子の自閉症と関連づけられるなら、子ども虐待を犯すリスクを特に増加させる精神疾患は、子どもの自閉症のリスクを増加させるものと遺伝子的に重複している可能性がある。今後の研究はさらに、母親の子ども虐待が子の自閉症と関連する因果関係のメカニズムを調べる必要がある。

 



大阪大学大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学
   連合小児発達学研究科 金沢校

こころの相互認知科学講座

発達障害市民ひろば ::::::::::::::::::::::::::::::